フォルテピアノ・クラヴィコード・チェンバロ奏者のページです

Cubetto di Musica a Misaki

Cubetto di Musica a Misaki

Cubetto とは小さいキューブ(コップに入れる氷のように小さい立方体)のことです。
30席程度の小さい空間ですが豊かな響きの中で演奏をお楽しみいただけます。

クベット・ディ・ムジカ みさき

設計して下さった塚原秀典先生へのメッセージ(2008年)

板戸を開け放つと家全体がワンルームになってしまうフリューゲルハウスには、部屋というものが存在しません。バスルームもガラス張りですから個室になるのはトイレだけです。上の娘は友達に「自分の部屋はあるの?」と聞かれ、「部屋はないけど場所はある」と答えたそうです。そんな家に住み始めて1年。塚原先生が企んだシンプルさゆえのダイナミックな空間利用に、我々の生活様式は一変してしまいました。この家には生活を思考させる様々な要素がひそんでいるのです。

歴史的鍵盤楽器の演奏家である私たち夫婦は、入居後まず楽器の響きを吟味。音楽スペースは2階分完全に吹き抜けとなっているので、チェンバロやフォルテピアノの響きが抜群です。床材は響版と同じヨーロッパスプルースです。あるチェンバロ制作者は楽器を見に来た際、床も良く響いていると話していました。この響きに助けられて音と音との間のスペースをしっかりと聞き取る練習が可能になり、楽曲のイメージ作りが大きく変わりました。これは留学中に経験した練習の感覚を思い出させてくれるものです。天井の低い響きのない典型的な日本家屋の一室で練習せざるを得なかった以前には考えられなかったことです。

聴き手となった場合も格別です。音楽スペースを作っている板戸を開け放ち、生活スペースの2階とロフトを音楽スペースから見上げると、オペラハウスのバルコニーのようになります。場所によって楽器自体の音がダイレクトに聴こえたり、響きを伴って香り立ってきたりと変化に富んでいます。

視覚的にも今までにない感覚を楽しんでいます。家を仕切る壁がほとんどないので、基本的に家のどの場所からも家全体を見渡せます。入居前までは全てが露わになるという生活を想像もしていなかったので、これは我々の生活様式を一変させるのに充分でした。しかし様々な視線の角度から死角もできてくるので、どう見えてどう見えないのか、そしてどう見せてどう見せないか、上下左右前後と視線を3次元移動させながら現在も家具の位置や生活雑貨の置き場所を工夫しています。これは生活感を残しながらも美的に生活するためのエチュードです。

大きく解放された空間でおもしろいのは視線だけではありません。光の動きです。四季折々の太陽光は家全体を貫いてダイナミックに動いていくのでまるで日時計のようです。東から登った月の光が西側の壁にあるチェンバロをうっすらと照らす様はドビュッシーの「月光に濡れる謁見のテラス」の響きです。でも盛夏には想像以上に太陽が北にまわり、直射日光を避けるためになるべく北側に配した衣装タンスを直撃したのには驚きました。

こういった音楽スペース中心の設計から生まれた楽しいおまけもあります。楽器を直撃する太陽光を遮る目的で、家の西半分を占める音楽スペースの南側全体を塞いだためにそこに大きな白い壁ができたのです。北側の屋内バルコニーから映画を観るようにはできないかと先生と一緒に工務店に頼み込みました。手すりを折りたたみ式に改造してもらって、日没後上映可の映画館が実現しました。ゼミ学生を呼んで「お熱いのがお好き」を上映して大受けしたり、子どもたちとラピュタ崩壊時のムスカを大写しで確認したりと大活躍です。

このようなフル回転の様々な楽しみを可能にしたのは、まさに塚原先生の設計力、空間把握力だったのです。設計開始当初の我々の出した条件は全く大変なものでした。歴史的鍵盤楽器を5台おいてなおかつ響きがよく、いざとなったら小さな演奏会も可能なスペースが欲しい。音楽と生活とをあまり切り離さないようにしたい。銀行からの借り入れにかなり限界があるのでローコストでお願いしたい。湾を一望できる景観を生かして欲しい。先生のホームページにあるような美しい家に住みたい。このような無理難題を突きつけられながら、先生は3、4回の話し合いの後、突然現在のプランを持ってこられたのでした。「えっ、玄関がない!」私たちは唖然としました。「家全体がワンルーム、おお、壁がないとなるとまるで寺山のレミングですね」などと興奮のあまり的はずれなコメントをしつつ、しかし空間の使い方があまりにもおもしろかったので、玄関のことなどは直ぐに吹き飛びこのプランに夢中になってしまいました。このときの感動は1年住んだ後の今でも変わりません。

この小さな家での大きな幸せをかみしめながら、私たちは湾を一望する屋上から塚原先生の住む大阪に向かってビールで乾杯するのです。塚原先生ありがとうございました。

画像の説明
塚原建築設計室
http://hwbb.gyao.ne.jp/tkhr96-pk/sekkei/index.htm

ロフトより

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